大判例

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名古屋高等裁判所 昭和25年(う)1927号 判決

一件記録によれば被告人が昭和二十二年二月十日頃三重県名賀郡滝川村大字柏原二百三十八番地でその小作人桐本やすのに対し自己所有の田一段六畝十六歩をそれが政府に買収せられて買収令書を交付せられる以前に当該農地の地租法による賃貸価格に農林大臣の定める率を乗じて得た金額金千四百五十四円八十銭を超えた代金一万円で売渡した旨の公訴事実に対して原判決が所論のように桐本嘉蔵から右土地の代金にその滞納小作料一箇年金百五十円及び昭和二十三年分小作料をも含めた合計金一万円を受領した旨の事実を認定し且つ右土地の買受人は桐本嘉蔵であつて起訴状記載のように桐本やすのではないが之を右原判示のように変更しても訴因の同一性を害するものではなく、従つて訴因の変更をする必要もないものと認める旨判示してその変更の手続をしなかつたことが明らかである。因みに記録に徴するに原判示事実及び本件公訴事実は何れも被告人がその所有していた農地の価格についてその小作人等から農地調整法第六条の二所定の額を超えて之を受領した旨を謳つておつて、その間同弁護人の論旨一所論のような事実の置きかえ即ち公訴事実と異なる事実が原判示事実として摘示せられた事実は之を認めることができなく、ただ右桐本の関係においては被告人が右金員を受領した相手方が右のように公訴事実と原判示事実とによつて異なつて表示せられているのに止り、且つ記録上明らかなように右桐本やすのは右桐本嘉蔵の妻でありその他一件記録に徴した右の相違も右公訴事実の同一性を否定するものとは解しがたく、従つて原判決にはこの点について所論のように、審判の請求を受けた事件について判決せず審判を受けない事件について判決した廉はないので論旨自体は理由がないものといわなければならないけれども、職権をもつて調査するに右のように右金員を受領した者は同一の被告人であつても、被告人にその金員を給付した者が右桐本やすのであるのと、右桐本嘉蔵(自身又は妻桐本やすのを代理人又は使者として)であるのとではその間訴因の同一性の失われていることは明らかで原判決の所説のように訴因の同一性を害しないものとは解しがたく、従つて原審は須らく刑事訴訟法第三百十二条第二項によつて訴因を変更すべき旨を命じた上原判示のように事実を認定しなければならなかつたのに右説示のようにその訴訟手続を履践する必要はないものと断じてその挙に出なかつたものであるから原判決はこの点について訴訟手続に法令の違反があつてその違反が判決に影響を及ぼすことが明らかであるので刑事訴訟法第三百七十九条第三百九十七条によつて破棄を免れない。

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